機関誌「冷凍と空調」 / 2002.10 (NO.497)

研究紹介

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磁気冷凍の最近の状況

 

東北大学大学院工学研究科
材料物性学専攻
 深道和明・藤田麻哉

 従来,エアコンや冷蔵庫などに用いていたフロンガス(クロロフルオロカーボン:CFC)はオゾン層破壊の原因となるため先進国では1995年に全廃規制が実施され,また,代替フロン(ハイドロクロロフルオロカーボン:HCFC)も2020年を目処に全廃されることがモントリオール議定書により決定されている。これらに代わる冷媒として注目されたハイドロフルオロカーボン(HFC)はオゾン層への影響はないものの,CO2などと同様に温暖化ガスとして作用する危険性が指摘され,京都議定書では使用削減指定ガスに含まれている。これらの理由から気体冷凍に変わる新しい技術の開発が望まれている。中でも注目されるのは,磁性体の相転移と磁場印加によるエントロピー変化を応用した磁気冷凍であり,アメリカ,日本,中国およびヨーロッパなど世界各国ですでに磁気冷凍に応用する磁性材料の開発が進められている。

(1) 磁気冷凍の原理―ガス冷凍との比較―

 磁気冷凍の原理を気体冷凍の場合と比較して模式的に図1に示す。気体冷凍では,コンプレッサにより高温高圧にした気体状態の冷媒を凝縮器で室外に放熱させながら液化しエントロピーを低下させる。室内では膨張弁と蒸発器における低圧低温の霧状冷媒が急激に気化することでエントロピーを増加させながら吸熱する。この後冷媒を再びコンプレッサに回すことでサイクルを形成し,熱交換を行う。従って,気体冷凍で重要なのは,気体―液体間の潜熱を伴う状態変化,すなわち一次相転移である。一方,磁気冷凍では磁気秩序を有する状態と失った状態の間の相転移を利用し,気体に対する圧力の代わりに磁場を印加する事で磁気的な無秩序度,すなわちエントロピーを制御する1,2)。磁性体の磁気秩序の原因は,原子レベルでの磁気を有する原子磁石によるもので,秩序状態は原子磁石のNS極の向き,すなわち,磁気モーメントの向きにより分類される。現在知られている磁気秩序は,全磁気モーメントが自発的に全て同じ向きに揃った強磁性,同じ大きさの磁気モーメントが隣同士で反平行に並んだ反強磁性,異なる大きさの磁気モーメントが反平行配列したフェリ磁性などがある。我々が磁気カードや切符として親しみのあるのはこのフェリ磁性体である。強磁性のように全磁気モーメントが揃っている場合あるいはフェリ磁性体のように反平行に並んだ磁気モーメントの大きさに差が生じる場合は,磁性体全体で磁気を生じ自発的に磁化を有するので,永久磁石などに応用される。図2には強磁性体の温度(T)と磁場に対するエントロピー変化(S)を模式的に示す。低温側では強磁性状態で自発磁化が発生した状態にある。このため,強磁性状態では磁気エントロピーは低い状態にある。磁気モーメントの自発的整列は温度上昇により擾乱されるため,自発磁化は減少し磁気エントロピーは増加する。温度を上昇しつづけると,最終的に自発磁化が消失する温度,すなわちキュリー温度に達し,強磁性は消失して磁気モーメントが無秩序に揺れ動く常磁性状態に転移する。常磁性状態は磁気エントロピーが高い状態であるが,キュリー温度近傍では,強磁性状態で抑制されていたエントロピーが速やかに開放されるため,特にエントロピー変化が大きい。一方,磁気モーメントは外部から磁場を印加することでも配向する。従って,外部磁場の下でのエントロピー―温度曲線は零磁場の時より下側に位置する。ある温度T1において,磁性体の温度が保たれるように熱溜に放熱させながら外部磁場H=0からH≠0に変化すると,図2の(1)の線のように,等温エントロピー変化ΔSを生じる。この後,磁性体が外部と熱交換するより早く断熱的に磁場を0に戻すと,(2)の線のようにエントロピー変化が0のまま,温度T2の零磁場時のエントロピー曲線上に達する。すなわち断熱温度変化ΔTだけ磁性体の温度は冷却される。この冷却効果により,例えば室内や冷蔵庫内を冷却後は,再び高温側へ平衡昇温して,冷却サイクルを実現する。エントロピー変化ΔSと断熱温度変化ΔTは総称して磁気熱量効果と呼ばれ,磁気冷凍における冷却能力の目安である。

図1 気体冷凍と磁気冷凍の原理の比較を示す模式

図2 エントロピー(S)―温度(T)曲線状での磁気冷凍サイクル

(2) 従来の応用例1,2)―低温対応の開発状況―

 当初,磁気冷凍機は極低温を実現するための手段として開発された。1930年代には,磁性元素を含みながら低温でも磁気秩序を示さない,常磁性塩と呼ばれる磁性体を用い,0.2K以下の極低温が磁気冷凍により達成されている(絶対零度0Kは−273℃)。その後,さらに低温の実現を目指し,通常の磁気モーメントの担い手である電子の代わりに,原子核の担う磁気モーメントを用いることで,数mKの極低温領域を生じる磁気冷凍機が開発された1)
 このような極低温用磁気冷凍機は当然ながら,基礎物理学の分野でのみ用いられるものであり,磁気冷凍をより広い分野に応用する試みがスタートしたのは1980年代以降である。
 企業ベースで磁気冷凍機開発に成功した最初の例は東芝グループによるヘリウム液化冷凍機である。これは,Gifford-McMahon(GM)冷凍機により20K程度まで冷却されたヘリウムガスをさらに沸点である4.2K以下まで冷却し液化するためのもので,Gd3Ga5O12(ガドリニウムガリウムガーネットGGG)磁性体へ超伝導マグネットで磁場を印加除去する方式を取っている1)。現在はGM冷凍機に搭載された蓄冷材と呼ばれる磁気化合物の特性が向上したため,Heガス自体を冷媒としたGM冷凍機単体での4K域での作動が可能となっているが,GGG磁気冷凍機は今日でも重要な位置を占めている。例えば最近,次世代クリーンエネルギーとして注目される水素を備蓄する上で20K付近まで冷却し,液化水素あるいは液体と固体水素がシャーベット状に混合したスラッシュ水素の形態にすることが考案されている3)。このような目的のために,従来では高価な液体ヘリウムを冷媒として用いる方法が一般であったが,GGGなどを搭載した冷凍効率の良い磁気冷凍機を用いる方法を三菱重工などのグループが実際に検討している。また,水素液化用磁気冷凍技術の開発は1993年よりスタートしたNEDOによる水素利用クリーンエネルギー開発プロジェクトWE-Netにおいても注目されており,GGG以外の磁性体としてDyAl2やErAl2およびこれらを組み合わせた化合物などが候補として挙げられている3)

(3) 常温磁気冷凍用磁性材料の展開―常温対応の開発状況―

 極低温に比べ,より高温側での磁気冷凍を困難にするのは,原子の熱振動によるエントロピーの存在である。磁性体を構成する原子は極低温ではほぼ定位置に留まっているが,熱エネルギーが加わると平衡位置まわりで振動する。格子振動と呼ばれるこの現象は,磁性と関係の無いエントロピー増加を生じるため,磁気冷凍による冷却能力を低下させる。1976年NASAにより試作された最初の室温磁気冷凍機は,断熱温度変化後の冷却能を蓄える蓄冷液として水とアルコールの混合液を備え,希土類金属で室温付近まで強磁性を示すGd(ガドリニウム)が磁気冷凍用磁性体として用いられた1,2)。Gdはキュリー温度が16℃付近にあり,キュリー温度の上下でのエントロピー変化が比較的大きいため,現在でも,磁気冷凍機のプロトタイプ開発の際に良く用いられている物質である。しかし,Gdを用いても,十分な冷凍能力を得るためには超伝導マグネットなどの大掛かりな外部磁場発生源が必要とされるため,当時は室温磁気冷凍機の実現には至らなかった。
 しかし,磁気冷凍は気体冷凍に比べ,フロンフリーである事に加えて,コンプレッサによる気体の圧縮膨張に際してのエネルギー損失が低減され,また,磁気冷凍用磁性体を磁場中で移動させるだけの簡便な機構で冷凍が実現できるなど,高効率かつ省エネルギー化が可能であるため,様々な改善が試みられている。方法としては冷凍機としての機構の改善と磁気冷凍用磁性体の新たな開発が挙げられる。冷凍機構の進展については沼澤による優れた解説が文献2)に掲載されているので御参照願いたい。
 室温磁気冷凍材料として有望なのは室温近傍の温度で大きな磁化変化が急激に生じる磁性体である。上述したGdなど一般的な磁性体は温度上昇により自発磁化がなだらかに減少しながら消失する,いわゆる二次相転移を示す。最近注目されているのはキュリー温度で急激に不連続的に変化する,一次相転移を示す磁性体である。指摘しなければならないことは気体冷凍でのフロンの気体―液体転移も一次相転移である。一次相転移の場合,転移に伴い潜熱と呼ばれる熱の急俊な放出があるため,エントロピーは急激に変化する。このため,図2で示したΔSが弱い磁場でも大きな値として得られやすい。また,一次相転移の転移温度は磁場により顕著に上昇する場合が多いので,大きなΔTの出現が期待される。現在,室温近傍で一次相転移を示す磁性体は数が限られており,世界中で様々な探索が行われている。アメリカのAmesを中心とした開発グループでは,Gd5Ge2Si2化合物が280K付近で示す結晶構造相転移に伴う磁性の変化に注目し盛んに研究を進めている4)。また,日本国内では京大の和田らが320K近傍で一次磁気相転移を示すMnAsを中心とした金属間化合物について研究を行っている5)

(4) 常温磁気冷凍の可能性と展望―La(FexSi1-x)13Hy化合物の磁気熱量効果6−8)

 今回,我々が磁気冷凍用磁性体として開発に成功したのはLa(FexSi1-x)13金属間化合物およびその水素化化合物である。本化合物は,低温では強磁性体であるが,温度が上昇しキュリー温度TCに達すると一次相転移を示し,磁化が不連続に消失し,高エントロピー状態の常磁性相に急激に変化する6,7)。特徴的なのは図3にx=0.88の例で示すように水素量を調整することで195K(約−80℃)から330K(約60℃)付近までの範囲の中で,一次相転移キュリー温度が制御できることである。本化合物は水素を吸収しやすい希土類元素であるLaを含むため,水素吸収は比較的簡単なプロセスで実現可能であり,また,一旦吸収した水素は上記の使用温度範囲では,化合物中に安定に存在する。また,これらの化合物において常磁性相に外部磁場を印加すると,遍歴電子メタ磁性転移と呼ばれる磁気相転移を生じ低エントロピー状態の強磁性相に変化する。すなわち大きなΔSが弱い磁場で得られる。現在,永久磁石の磁気の強さ,すなわち磁束密度は,ネオマックスと呼ばれる永久磁石において,文具などに用いられるフェライト磁石の約1桁強い2T(テスラ,磁束密度の単位)程度である。本化合物のキュリー温度は1T程度の磁場印加でも4Kと顕著な変化を示すため大きなΔTの出現も期待される。
 図2で示した曲線を実際に得るため,磁場中で比熱Cを測定し,S=∫(C/T)dTの関係から得られたLa(Fe0.88Si0.12)13化合物のエントロピーSの温度変化を図4に示す7)。195K以下および220K以上でのエントロピー(S)の温度(T)変化は大部分が格子振動によるものである。H=0の曲線はTC=195Kで不連続にSが上昇し,また磁場を増加するとエントロピー変化がより高温で生じる。水素濃度を変化させたLa(FexSi1-x)13Hy化合物について同様の測定を行い,ΔSとΔTを実際に評価した結果をまとめて表1に示す。磁気冷凍を高効率にするためには,わざわざ大規模な超伝導マグネットや電磁石を用いるのは実用的でなく,磁場変化に永久磁石を用いることが現実的であり,このためには永久磁石で発生できる程度の磁場でも大きなエントロピー変化ΔSと断熱温度変化ΔTが要求される。いずれの水素濃度においても,永久磁石で発生可能な2Tの磁場変化で生じるΔSは,これまで室温磁気冷凍機のデモンストレーションで使用されていたGdの場合より3〜5倍程度に達する大きさであり,また,ΔTについても,実用上の目安とされる2K/Tの基準を大幅に凌駕している。従って,本化合物を冷凍機に用いる場合,永久磁石と本化合物との距離を変化させる機構により冷却が可能となり,−80℃〜60℃の温度範囲で選択的に適用範囲を設定できる。特に室温付近において永久磁石により動作可能な磁気冷凍機が実現されれば,冷凍能力と投入電力の比,すなわちCOPが向上する。上述したGdによる磁気冷凍の場合でも2Tまでの磁場範囲で冷凍能力が200Wに達するとする試算もあり,Gdを上回る冷凍能力を有する磁性体を用いれば,気体冷凍式のエアコンや冷蔵庫のCOPを大きく上回る可能性が高い。従って磁気冷凍はエネルギー問題の観点からも大きなメリットを有する。また室温よりやや高い温度まで能力を発揮するため,電子機器等の内部冷却への応用も考えられる。さらに,業務用の食品・飲料冷凍機では民生用より低温の−60〜70℃までの急速冷凍が求められているが,これらの温度域も本化合物で冷凍可能な範囲内である。今後,さらに低温側へのキュリー温度の設定を実現できれば,高温酸化物超伝導体を用いた電子デバイスを実用化するための作動温度安定化冷凍ユニットなどへ搭載することも可能であろう。
 家電機器などに用いられる場合,重要なことは磁気冷凍物質としての良好な特性に加え,使用時やリサイクル時に人体に無害である事であり,また,当然ながら製造単価が低い方が良い。La(FexSi1-x)13Hy化合物は90%以上がFeとSiであり,また,Laも希土類元素の中でも安価豊富である。さらにこれらの元素は人体に無害であり,しかも環境汚染・破壊をひきおこすことも全く無い。

図3 La(Fe0.88Si0.12)13Hy化合物の熱磁気曲線(磁化の温度依存性) 4)

図4 La(Fe0.88Si0.12)13Hy化合物のエントロピー(S)−温度(T)曲線 7)

表1 La(FexSi1-x)13Hyのキュリー温度,磁気エントロピー変化ΔS(絶対値)および断熱温度変化ΔT 6−8)

化合物 キュリー
温度(℃)
|ΔS|
(J/KgK)
ΔT
(℃)
La(Fe0.88Si0.12)13 -78 20 6.5
La(Fe0.89Si0.11)13 -85 28 7.5
La(Fe0.88Si0.12)13H1.0 1 19 6.2
La(Fe0.89Si0.11)13H1.2 18 24 6.9

<文献>
1) 橋本巍洲著:「磁気冷凍と磁性材料の応用」(工業調査会 1987)
2) 沼澤健則:低温工学 32(1997)192.
3) WE-NET 平成12年度報告書
  http://www.enaa.or.jp/WE-NET/report/2000/japanese/12.html
4) V.K.Pecharsky and K.A.Gschneidner Jr.: Adv.Cryog.Eng. 42(1996)423.
5) H.Wada and Y.Tanabe: Appl.Phys.Lett.79(2001)3320.
6) A.Fujita, S.Fujieda, K.Fukamichi, Y.Yamazaki and Y.Iijima: Mater.Tran.43(2002)1202.
7) S.Fujieda, A.Fujita and K.Fukamichi: Appl.Phys. Lett.81 (2002)1276.
8) 藤田麻哉,藤枝 俊,深道和明:日本金属学会報“まてりあ”41(2002)269.

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