機関誌「冷凍と空調」 / 2004.7 (NO.518)
資料紹介
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京都議定書の目標達成,事実上不可能に
 2010年までの排出見通しまとまる

 

 地球温暖化対策のための京都議定書の第1約束期間である2008年〜2012年が近づくにつれ,日本の温室効果ガスの排出量の見通しと,排出抑制のための対策のあり方についての議論が進んでいます。この中で,これまでの省エネルギー対策にもかかわらず,民生・運輸などの分野でのエネルギー消費の増大から,2008年から2012年の第1約束期間に,基準年比6%削減という目標を達成することは事実上不可能となりつつあります。このため,議論は当面の対策の強化から将来に向かっての対策へと論点が移りつつあるようにみえます。ここでは主に温室効果ガスの排出の実績,見通しについて,最近発表された資料から紹介します。
(編集係)

 

 京都議定書は1997年12月に調印されたが,政府は翌1998年6月に「地球温暖化対策推進大綱(旧大綱)」をまとめ,2010年に向けた地球温暖化対策を進めることとした。その後,議定書の細目の決定を待って,議定書の国会承認と国内法の整備が行われるのと同時に,2002年3月,新しく「地球温暖化対策推進大綱」が決定された。
 この中で政府は,京都議定書で日本が公約した第1約束期間(2008年〜2012年)において基準年比6%削減の目標に対して,表1のような方針で臨むことにした。

表1 地球温暖化対策推進大綱における目標
対象・項目 目標
  エネルギー起源CO2
   
  (1)   エネルギー需給対策
1990年と同水準に抑制
  (2)   革新的技術開発・国民各層の温暖化防止活動の推進
1990年の水準から基準年総排出量比で2.0%分削減
  非エネルギー起源のCO2,メタン,亜酸化窒素
基準年総排出量比で0.5%分削減
  代替フロン等(HFC,PFC,SF6
1995年に対して基準年総排出量比+2%にとどめる
  森林によるCO2吸収
基準年総排出量比約3.9%の吸収量の確保

 

基準年の概要

●基準年総排出量は12.37億トン
 この目標の基礎となっている基準年は,CO2,メタン,亜酸化窒素については1990年度の実績,代替フロン等3ガスについては1995年度の実績をベースにして算出されている(図1,図2参照)。これによるCO2換算での基準年総排出量は12.37億トンで,このうち最大のものはCO2の排出で11.22億トン,さらにエネルギー起源のCO2がこのうちの93%,10.48億トンを占める。冷媒の転換により増大が見込まれる代替フロン等3ガスはCO2換算で0.50億トン(4970万トン),このうちHFCは2000万トン,さらにこのうちの冷媒は81万トンであった。1995年は,CFCの全廃の期限であった1994年の翌年にあたり,HCFCの転換はまだ準備段階にあり,CFCからHFCに転換した分野についても大気への排出としては顕在化していない。


図1 地球温暖化ガス排出の推移と予測,目標


図2 基準年における温室効果ガスの排出量

  各温室効果ガスの排出量に地球温暖化係数“GWP”を乗じ,それらを合算したもの。GWP(地球温暖化係数:Global Warming Potential)は温室効果ガスの温室効果をもたらす程度を,二酸化炭素の当該程度に対する比で示した係数。数値は気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第2次評価報告書(1995)によっている。
 京都議定書第3条第8項の規定によると,HFCs等3種類の温室効果ガスに係る基準年は1995年とすることができるとされている。
 なお,温室効果ガス排出・吸収量は,IPCCガイドラインの規定では,暦年単位で算定することとされているが,これまで日本は,年度単位で算定してきている。

●エネルギーの53%が石油依存
 基準年のエネルギー起源CO2の排出について,発電時のCO2発生などを需要分野ごとに按分したうえで部門別にみると産業部門が45%を占め4.76億トン,民生部門が26%で2.73億トン,運輸部門が20%で2.17億トンとなる。なお,原油精製等の転換が0.82億トンとなっている。
 エネルギー起源CO2はエネルギー消費に伴うものであるが,最終エネルギー需要としては,13,323PJ[ペタジュール,P(ペタ)は10の15乗],原油換算で3.4億kLであった(図3参照)。これに対するエネルギー供給としては20,144PJ,原油換算で5.1億kL,このうち石油が53%を占め,石炭17%,CO2発生のない原子力・水力が14%,天然ガスが10%という構成であった(図4参照)。


図3 エネルギー総需要の推移と見通し


図4 エネルギー総供給の推移と見通し


 これに対して目標年においては,エネルギー起源のCO2排出については,省エネルギー政策と原子力や自然エネルギーの利用促進など,エネルギー供給構造対策の推進により,1990年の基準年対比で総排出量に対して伸びゼロ%に抑え,加えて革新的技術開発と国民の努力により2.0%削減を図ることを主眼にしている。
  一方で代替フロン等3ガスについては,1995年を基準として,総排出量に対して2.0%の増加にとどめることを目標にしている。また,非エネルギー起源のCO2,メタン,N2O(亜酸化窒素)については総排出量比0.5%のマイナスを目標とし,結局,ガス排出量としては0.5%のマイナスを目標としているということになる。
 京都議定書での基準年比6.0%の削減約束は,上記の直接的な排出ガス抑制に加え,森林運営によるCO2吸収の確保で3.9%,その他共同実施などいわゆる京都メカニズムの活用で達成しようというのが政府の姿勢であった。

最近の状況

●温室効果ガス排出は8%増で推移
 基準年以降の温室効果ガスの排出状況を,2000年の実績と最近発表された2002年の報告から概観する(詳細は図5,図6)。CO2換算による総排出量は2000年が13.37億トン,2002年が13.31億トンであり,基準年である1990年度より8%程度増の水準で推移している。2008〜2012年の目標に対しては,9%近い高い水準である。このうち二酸化炭素の排出は2000年が12.39億トン,2002年が12.48億トンで,基準年に比べ10〜11%増加した水準である。メタン,N2Oは2000年が0.59億トン,2002年が0.55億トンで,基準年に比べ10%以上の減少,基準年の温室効果ガス総排出量に対し0.5%弱分削減に貢献していることになる。



図5 2000年における温室効果ガスの排出量


図6 2002年における温室効果ガスの排出量


図7 代替フロン等3ガスの排出量の推移と見通し

 代替フロン等3ガスについては2000年が0.39億トン,2002年が0.28億トンとなり,基準年の0.50億トンから大幅に減少しており,これは,基準年総排出量に対し,2000年で0.9%,2002年で1.9%の削減に寄与していることになる。

●エネルギー消費は20%増の水準
 最近の温室効果ガス排出量の大宗を占めるエネルギー起源のCO2排出について,エネルギー消費と供給指標をみると次のようになる(図3,4,5,6参照)。
 1990年の最終エネルギー消費は,先述のように13323PJ(原油換算で約3.44億kL)であったが,2000年,2002年にはそれぞれ15982PJ,16024PJ(原油換算ではいずれも約4.13億kL)であった。2000年,2002年の水準は1990年に比べ約20%増加した水準にある。1990年と2000年・2002年の比較を部門別にみると,産業部門は1990年の6678PJに対し最近では7500PJ強で,この間13%増加しているが,構成比では1990年の50%から47%に3ポイント低下している。

●民生部門は30%以上の増
 これに対し民生部門は,1990年の3432PJから2000年が4535PJ,2002年が4616PJと,それぞれ1990年対比32%,35%と著しい伸びを記録している。この間構成比も26%から28%,29%と拡大している。民生部門はさらに家庭部門と業務部門に区分されており,1990年当時は民生部門をほぼ2分する量であったが,家庭部門はこの間28%増加,全体に対する構成比も12%から13%に広げている。一方の業務部門は,この間40%も増加,構成比は13%から16%近くに達している。
 運輸部門は,1990年の3212PJから2000年に3913PJ,2002年に3839PJとそれぞれ22%,20%の増加を示しているが,構成比は24%程度で大きな動きはみられない。

●化石エネルギーは14%増
 上記のエネルギー需要に対して,供給サイドでは1990年の一次エネルギー総供給ベースで20144PJ(原油換算5.20億kL)であった。これが2000年には約17%増加して23537PJとなり,原油換算でほぼ6億kLに達している,このうちエネルギー起源のCO2排出となる化石エネルギーの供給は,1990年の16901PJ(全体の84%)から2000年には19276PJ(全体の82%)へ,絶対量としては14%増加しているものの,構成比としては2ポイント低下している。2002年は2000年に比べやや減少しているが,全般としてはほぼ同じ水準である。

●石油・LPGは50%割る
 化石エネルギーのうちLPGを含む石油は,1990年の11521PJから2000年の12007PJと,10年間で4%の伸びを示しているが,全体に対する構成比は1990年の57%から2000年には51%に低下している,2002年には11414PJと構成比も50%を若干であるが割り込むまでになっている。

●天然ガスの構成比が増加
  一方,天然ガスは1990年の2063PJから2000年には3072PJ,2002年には3111PJと拡大,構成比も1990年の10%から13%を超える水準になっている。なお,石炭についてもこの10年で増加しており,構成比も17%から20%近くに拡大している。
 原子力・水力など非化石エネルギーは,合計で1990年の1905PJ(全体の16%)から,2000年には4261PJ(全体の18%)まで拡大したが,2002年には3969PJ(全体の17%)へと減少している。この変化はほとんどが原子力で,1990年の1905PJが,2000年には2898PJ,2002年には2656PJとなっており,非化石エネルギーのうちの3分の2を占めている。なお,自然エネルギーなどの再生可能エネルギーはエネルギー供給全体の2%強を占めるにすぎず,現在のところ需要に大きな影響を与えるまでには育っていない。

●HFCは副生ガスが減少
 温室効果ガスのうち,代替フロン等3ガス(HFC,PFC,SF6)の排出は基準年が1995年であるが,この時点でCO2換算で合計0.50億トンであった。2000年には0.39億トン,2002年には0.28億トンと大幅に減少してきている。この最大の要因は,HCFC22の製造時の副生ガスとしてのHFC32の減少である(図7参照)。1995年にはこれが0.17億トン(3ガス合計の34%)を占めていたが,2000年には0.19億トン,2002年には0.13億トンと激減している。また電気絶縁ガスとして使用されるSF6については,1995年の0.17億トンから2000年には0.07億トン,2002年には0.05億トンと削減されている。一方,冷媒分野は,1995年の0.01億トンから2000年には0.03億トン,2002年には0.04億トンと順次拡大している。

●冷媒のHFC顕在化はこれから
 冷媒としてのHFCは,1994年末にCFCが全廃された際,カーエアコンや冷蔵庫の冷媒の代替となったが,冷媒量として多くを占めるHCFC22を使用していた機器がHFCに急速に転換し始めたのは最近になってからであること,製品の冷媒転換と排出とのタイムラグなどの関係から,HFCの排出が増加していくのはこれからである。

2010年の目標

 今後の温室効果ガスの排出見通しについては,経済産業省の産業構造審議会と総合資源エネルギー調査会の合同会議が設置され,関連する各部会で検討が進められてきた。
 この検討においては,当面の課題に対する基礎資料という側面より,長期的な視点での検討資料を得ることが主眼に置かれている。ただ,ここでは2010年の見通しについて紹介し,長期見通しについては別の機会に紹介する。

●現在政策継続前提
 2010年までの温室効果ガスの排出見通しは,京都議定書の第1約束期間である2008〜2012年の中間にあたり,この見通しのいかんが京都議定書の達成の可否を実質的に示すことになる。今回作成された2010年の見通しは,基本的にはこれまで温暖化対策として推進してきた省エネルギー対策を着実に進め,さらに可能な範囲で省エネルギー技術の普及を図ること,エネルギー供給面でのよりCO2発生の少ないエネルギーの比率を高める政策を進めること,代替フロン等の非エネルギー起源の温室効果ガスについても,関係者の排出削減に向けた努力の評価をふまえて後の改善を見込んで作成すること――等の基本的考え方で検討が進められている。このため,今回の見通しの紹介では,これまでの政策の延長上で,可能な追加策を加えた範囲での見通しについて紹介する。(図1,図3,図4,図7及び図8参照)。
 見通しの基礎となる各種経済指標として,次のような前提を置いている。

(1)   人口は2006年にピークを迎え,その後減少に向かうとされているが,見通しの期間では総人口約1億2700万人,労働人口約6700万人で横ばいである。
(2)   実質GDPは,2010年までほぼ2.0%の伸びを継続する。
(3)   外国為替水準は120円/ドルで推移する。
(4)   エネルギー価格は安定的に推移する。


図8 2010年における温室効果ガスの排出量

●産業部門のエネルギー消費減少を見込む
 CO2排出の大宗を占めるエネルギー需要のうち,その中でも産業部門についてはこれまで進んできた素材系産業から加工組立型産業へのシフト,産業のサービス化が一層進展することを想定している。こうした産業活動の変化に加え,産業部門での省エネルギー型設備の導入等によるエネルギー利用原単位としては,対策をとらなかった場合に比べ9%以上の向上が見込めるとしている。このため,2010年の産業部門のエネルギー需要としては,1990年と比べ9%増となるものの,2000年に比べては4%の削減を期待できるとしている。

●エネルギー消費,民生はさらに5%増
 民生・家庭部門については,家電製品等について,いわゆるトップランナー方式による省エネ基準による効果に加え,待機時消費電力の削減,高効率給湯機の普及による効果が期待され,これらの対策がとられなかった場合に比べ12%の原単位の改善効果があるとしているが,一方で,世帯数の増加はなお続くこと,世帯当たりの家電機器の保有台数の増加などがあり,2010年の予測としては1990年に比べ30%増,2000年に比べても5%の増大になると見込んでいる。
 民生・業務部門では,業務用の床面積を指標にとり,1990年の12.9億m2から2000年に16.6億m2へと拡大したものが,さらに2010年には18.7億m2にまで増加するとしている。一方でエネルギー消費原単位は,民生・家庭部門と同様な機器の省エネルギー化やビルのエネルギー管理の改善等から,現行省エネ対策がとられなかった場合に比べ12%程度の改善効果が見込めるとしているが,結局2010年の民生・業務部門のエネルギー消費は,1990年に比べ2000年で40%増加し,2010年にもさらに微増傾向をたどると見ている。
 家庭・業務を含めた民生全体では,1990年に比べ2010年には39%増,2000年に比べてもさらに5%増加するとしている。
 運輸部門では,貨物の輸送需要は横ばいで推移するものの,乗用車の保有が1990年の約5800万台から2000年の7200万台,2010年の7900万台へと増加し,輸送需要も1990年の1兆3000億人・キロから2010年には1兆5300億人・キロへと増加すると予測されている。一方でエネルギー消費原単位は,自動車の燃費の改善やクリーンエネルギー自動車の普及,交通システムの改善などで14〜15%の向上が可能としている。この結果,運輸部門でのエネルギー消費は,1990年から2000年にかけて22%増加したが,2010年にかけてはほぼ同水準にとどまるとしている。

●LNG・原子力の増加見込む
 こうしたエネルギー需要の傾向に対して,エネルギー供給側での構成比の変化は,CO2排出に大きく影響する。今回の予測では,CO2排出の少ない天然ガスの構成比が一次エネルギーの15%まで増加すること,2010年までに既建設中の4基の原子力発電所が稼動し,構成比も14%(発電電力量の39%)まで向上するなどの要素を織り込んでいる。
 エネルギー起源CO2の排出見通しは,こうしたエネルギー需要とエネルギー供給の組合せで算出したもので,現行の需給両面のエネルギー対策を継続した場合として,図1,8のように10.98億トン,2000年に対して5%強の削減は見られるものの,1990年対比では4%増加するとしている。

●冷媒のHFCは急増の見通し
 冷凍空調分野と密接に関連する代替フロン等3ガスについては,基準年から最近までの間,排出量の削減に寄与したHCFC22等の製造時の副生ガス対策や電力設備での絶縁ガスの対策の効果は一巡し,逆にHFCを使用した冷凍空調機器の本格的な普及に伴う排出量の増加が急速に進み,2010年時点では代替フロン等3ガスの排出量の40%を占めるまでに拡大することが予測され,3ガス合計では,第1約束期間での目標である基準年度の温度効果ガス総排出量の2%分増加する水準になるとしている。(図1,7参照)。

●追加施策の試算も発表
 こうした温室効果ガスの種類ごと,使用する分野ごとの積み重ねで行った最終的な2010年の総排出量の見通しは13.05億トンで,京都議定書で約束した目標である12.29億トンを6%以上上回った水準となる。
 見通しでは,さらに革新的技術開発や国民の努力といった抽象的な項目で仮に2%程度の削減が得られた場合も想定している。また,環境省の中央環境審議会・地球環境部会でも同様の見通しを作成,当面の対策の強化についても提案している。これらの内容については次回紹介する。

●議論は2013年以降を見据えた対策へ
 今回の見通しの作成により,京都議定書の第1約束期間での温室効果ガスの排出目標の達成はほぼ絶望的であることが明らかになった。また,今後とりうる対策についても,省エネ基準での“トップランナー方式”といった画期的な政策を打ち出す余地は少なくなっている。議論は当面の追加策として強力な抑制策を打ち出すか否か,2013年以降の京都議定書の枠組みをどうするかを含めての政策の立案に移ろうとしているように見える。

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