フランスとイギリスのヒートポンプ補助金制度 ~ 海外短信クローズアップ

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No.679 2021年9月


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フランス

フランス政府は、数年にわたりCITEと呼ばれる税額控除制度でヒートポンプに対する助成を行ってきた。このCITEは昨年から‘リノベーション補助金’と呼ばれる新しい補助金制度に2段階で移行された。2020年1月1日から12月31日までの第1段階では、低所得世帯を対象にエネルギー移行についての補助金が国立住宅庁(ANAH)から支給された。補助金の恩恵を受けることのない中所得世帯は、経過的な措置としてCITEが2020年12月31日まで引き続き有効とされた。2021年1月1日からは‘リノベーション補助金(MaPrimeRenov)’だけがエネルギー移行についての補助金となりCITEは廃止された。
  
‘リノベーション補助金’の目的は、エネルギー消費低減工事に対して経済援助を行うもので、ヒートポンプ暖房給湯機(ATW)の設置も含まれる。住宅における快適性を向上すると共に、光熱費を減らし、環境保護を目的としている。政府は古い家屋におけるエネルギー転換の加速に焦点を当てている。

政府は補助金の受け取り者を所得別に、「所得が非常に少ない世帯」、「低所得世帯」、「中所得世帯」、及び「高所得世帯」の4世帯に区分している。

補助金は工事の種類と世帯の所得によって異なり、また世帯の人数とエネルギーの消費量によっても分けられている。エネルギー消費量は最も少ない区分Aから最も多い区分Gまで分けられている。

補助金システムは表に掲げた例のように従来と比較すると複雑になっている。

世帯構成 所得
<所得区分>
床面積 工事とコスト 補助金
1  夫婦と子供3人 €41,000
(約530万円)
<低所得>
100㎡

ATW設置
€18,000
(約233万円)

€12,100
(約156万円)

2 夫婦と子供1

€50,000
(約646円)
<中所得>

100㎡ ガスボイラ設置・ATW設置
断熱強化工
€39,700
(約513万円)

€13,500
(約174万円)

3 大人一人

€30,000
(約388万円)
<高所得>

100㎡

ATW設置・
断熱強化工
€39,700
(約513万円)

€3,500
(約45万円)



国立住宅庁は2021年の第1四半期について‘リノベーション補助金’の実績を報告している。

制度の開始から国立住宅庁は、376,927件の補助金申請書を受け取り、2021年の第1四半期にこの内のほぼ半分を受理した。2021年の第1四半期に受理した111,000件を含めて合計374,938件が国から承認され、国立住宅庁は169,134件の補助金を支払った。これは承認された申請数の半分をやや下回る件数となっている。また57,798件は同期間内に支払処理中となっている。

暖房システムの変更が住宅改善の最も一般的な事例になっており、申請の55%を占めている。この内17%がATWヒートポンプの据付を申請している。世帯の所得別の分析によると、2021年1月1日から、ATWヒートポンプの据付に伴う補助金の申請は、低所得層および極めて貧しい所得層での申請が最も多い。極めて貧しい所得層では高効率ガスボイラの申請はATWヒートポンプに次いで2位にランクされている。3位は木製ペレットストーブとなっている。低所得層では木質ペレットストーブがATWヒートポンプに次いで2位で、3位に高効率ガスボイラとなっている。中所得層の世帯では、木質ペレットストーブが好まれており、次いでATWヒートポンプとなっている。高所得層の世帯では暖房システムの変更は‘リノベーション補助金’の対象となる住宅改善のベスト3に入っていない。

2021年の補助金申請の59%は低所得層または最も貧しい所得層から来ており、36%が中所得層からのものとなっている。2021年7月1日から‘リノベーション補助金’は家主からの申請も受け付けることになっており、約80万件の申請が予想されている。

イギリス
英国の主要な省エネルギーアドバイスポータルであるグリーンエージによると、英国の再生可能ヒートインセンティーブ(RHI)は、2011年に低炭素建築物計画に代わって導入された制度で、目的は、生み出した再生可能エネルギーに応じて補助金を支払うことにより、国民が再生可能エネルギーを用いた暖房に投資することである。業務用分野でのRHIは2011年から実施されており、家庭用も2014年から開始されている。

RHIは、バイオマスボイラ、ATWヒートポンプ、地熱ヒートポンプ、水熱源ヒートポンプ、及びソーラー熱システムを対象としている。補助金は設備費と長期間の維持費をカバーするものとなっている。

当初RHIは2021年3月に終了する予定であったが、好評であったために政府は1年間延長することを決定した。2022年3月に終了すると、2022年4月からはクリーン・ヒート補助金(CHG)に変更される。CHGは2024年3月までの2年間とすることを政府は提案した。CHGの予算は1億ポンド(約152億円)に限定されている。

CHGは住宅と小規模非住宅建物を対象とし、暖房と給湯用ヒートポンプの据付費用を補助することになっている。RHIに対しCHGの大きな長所は制度がシンプルなことである。RHIのエネルギー需要をベースにした補助金制度は廃止された。

政府の制度ではヒートポンプの据付に4,000ポンド(約61万円)までの補助金を支給する。対象となる設備は、ATWヒートポンプ、地熱ヒートポンプ(GSHP)、及び空気熱源ヒートポンプ(ASHP)となっている。ヒートポンプの容量は45kW以下となっており、規模の小さな設備を対象としている。

英国では2017年に、暖房を脱炭素化するために、天然ガスに移行することなく2020年代に石炭燃料を段階的に廃止するクリーン成長戦略が発表された。CHGはこの一環となっている。しかし、消費者にとってはRHIと比較すると補助金の額が大幅に削減されている。住宅用のRHIは料金システムにより7年間支払われ、標準的な再生可能エネルギープロジェクトでは、消費者は約28,000ポンド(約425万円)を受けとるが、CHGでは4,000ポンド(約61万円)に限定されている。またCHGはRHIと比較すると適用対象となる暖房システムの種類が減っている。プロセス加熱、太陽熱、バイオガス燃焼、ハイブリッドヒートポンプ、及び熱供給などはCHGの対象から除外される見込みである。

RHIと比較するとCHGの予算は少ないが、より継続性が強く、住宅、小規模な業務用機器の使用者、及び産業に長期的な見通しが立てられるようにしている。

                                                                     〔出典:JARN June 25, 2021〕


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