オゾン層破壊効果のあるフロンの生産量・消費量の削減義務を課した「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」は1987年9月に採択された。国
資源エネルギー庁長官賞
東芝キヤリア株式会社/東北電力株式会社
No.657 2018年5月
【製品・ビジネスモデル部門/製品(業務)分野】ユニバーサルスマートX EDGEseries
写真1:表彰される東芝キヤリア株式会社 取締役社長 近藤弘和と
東北電力株式会社 常務取締役お客さま本部長 阿部俊徳
1.製品開発の背景
当社では高効率な空冷ヒートポンプチラーの開発とその普及拡大を目指し、2003年にモジュール型チラーを発売した。これ以降、主にセントラル空調システムなどに利用される大型熱源機の国内市場に占める空冷チラーの割合が増加しており、その中でも至近ではモジュール型大能力機種の出荷割合が最も多くなっている。大能力機種では筐体サイズを抑えて大能力化を図っているため、設置スペースの縮小化やモジュール台数の低減が可能であり市場に選ばれている反面、小能力機種に比べ運転効率が悪化していたことから、市場全体での省エネ効果をより大きくすべく、出荷割合が多い大能力機種の高効率化を図った。一方で、従前より寒冷地や大規模物件に一定の割合で燃焼式熱源機が導入され続けていることに着目し、ヒートポンプを更に普及拡大するための省スペース化と加熱性能の強化を図った。
2.製品の概要
本製品(図1)は、高効率・高機能・コンパクトをコンセプトにした大能力モジュール型空冷ヒートポンプ式熱源機である。本製品は以下の3つの主な特長を有する。
図1.空冷ヒートポンプ式熱源機ユニバーサルスマートX EDGEseries
製品サイズを変えずに大能力化を図ると一般的には運転効率が悪化するが、これを改善するために各種要素技術を開発した。まず圧縮機では、従来機と同じ外形での大能力化を目指し、圧縮室容量を増大することで世界最大容量[*1]を達成した。この時、圧縮ガスが吐出弁を通過する際の損失が増加するが、吐出弁を仕切板側にも設けて増設する新構造(図2)により抑制した。さらに、新設弁の剛性を変えて既設弁と作動タイミングをずらすことで過圧縮を抑制した。これらにより圧縮機単体の最大能力を1.3倍に増大しつつ、運転効率を従来機に比べて7%向上させた。また、圧縮機モータは実用上最も省エネ性が要求される低~中負荷に着目してチューニングすることにより電気的な損失を18%削減し、効率が悪化する高負荷側は当社独自のPWMコンバータにより高効率運転を可能にした。これらに加えて、送風機の新開発、熱交換器の最適化設計などにより60馬力クラスでは業界最高のIPLVc5.3[*2]を実現した。
上記要素技術は省スペース化にも貢献しており、従来機(50馬力)よりも小さい据付面積で業界初の70馬力を達成した。単位面積当たりの能力は他社の1.25倍で業界トップ[*1]、重量も業界最軽量[*1]である。さらに業界初のエッジフォルムにより水配管スペースを従来機より400mm縮小化した。これらにより1000kW規模での設置面積を現行機種と比べると37%削減し、省スペース化を達成した。
図3.「エッジフォルム」による省スペース化
ヒートポンプに求める加熱性能を東北電力と共同で市場調査し、除霜運転時の送水温度低下抑制、低外気温時の加熱能力向上、運転範囲拡大に取り組んだ。業界で初めて外気の相対湿度を検知して除霜開始判断の精度を高めることで適切な除霜運転を行い、除霜中の加熱能力を外気温度-15℃で従来機の約3倍に向上したのに加え、除霜を含めた加熱運転効率を約5%改善した。また、圧縮機のベーン2段化や軸受部の形状最適化などにより摺動部の信頼性を確保することで、加熱運転外気温度範囲を-15℃から-25℃へ拡大し、-15℃での加熱能力は業界トップ[*4]の120kWを達成した(図4)。加熱性能強化により寒冷地をカバーし、燃焼式熱源機を導入した場合に比べ約56%の一次エネルギーが削減[*5]できる。
当社は、現在最も普及している空冷モジュール型チラーの大能力機種で高効率化を図ったことに加え、省スペース、加熱性能強化といった特長を有したユニバーサルスマートX EDGEseriesにより、ヒートポンプのさらなる普及拡大を通じて省エネルギーや温室効果ガス排出抑制に貢献して行く。
[*1] 2017年9月現在。空冷ヒートポンプ式熱源機(空冷チラー)において。当社調べによる。
[*2] IPLV(Integrated Part Load Value)期間成績係数。部分負荷特性を加味したCOPの加重平均。IPLVc(冷却IPLV)は、JRA4066・2014「ウォータチリングユニット」に基づく値を示す。
[*3] 意匠登録済(意匠登録第1566043号、1566044号)
[*4] 外気温度-15℃、出口水温45℃における加熱能力。当社調べによる。
[*5] 山形県でのビル空調におけるHEATEDGE8台連結と吸収式冷温水発生機との比較結果。当社試算による。